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山形地方裁判所鶴岡支部 昭和23年(ヨ)567号 判決 1948年11月24日

申請人

川井美春

外二名

被申請人

鶴岡東宝株式会社

主文

申請人三名においてそれぞれ金千円の保証を立てるときは被申請人は申請人三名に対する昭和二十二年十二月当時の別紙記載の雇傭条件を前提とする雇傭条件に従つて申請人三名を被申請人の従業員として取扱い且つ申請人三名が被申請人の従業員として被申請人経営の映画館鶴岡東宝劇場に出入することを妨害し、又は申請人三名に対し被申請人の他の従業員と差別取扱をしてはならない。

訴訟費用は被申請人の負担とする。

申請の趣旨

申請人訴訟代理人は被申請人が昭和二十二年十一月十日申請人川井美春及び同富樫初子に又同月二十九日申請人菅原俊子に対してなした解雇の申入は申請人三名から被申請人に対する解雇無効確認等の本案判決の確定のときまでの執行を停止する被申請人は申請人三名をそれぞれその雇傭条件に従つて従業員として取扱い且つ申請人三名が従業員として映画館鶴岡東宝劇場に出入することを妨害し又は申請人三名に対し他の従業員と差別的取扱をしてはならない。との趣旨の判決を求める。

事実

被申請人は映画館鶴岡東宝劇場の経営者で申請人三名は被申請人の従業員である被申請人が申請人等に対し申請趣旨記載の解雇申入をした事情は次の通りである。即ち申請人等被申請人の従業員十二名が昭和二十二年九月二十日鶴岡東宝映画劇場従業員組合を結成し同月二十三日その届出をし同年十月九日被申請人会社取締役社長室富正規同専務取締役室富克己に対し団体協約締結の交渉をしたら被申請人はその交渉をした同組合委員長竹野鉄太郎に解雇を申渡しさらに同月十二日同組合が団体協約締結促進の申入をしたらその申入をした同組合委員佐藤富次郎に対し同月十四日解雇を申渡したので同組合側では右両名に対する解雇の申渡を不当と認め同月二十日団体協約の審議と右両名の解雇の撤回を要求したが、拒絶され翌二十一日山形地方労働委員会に提訴し同労働委員会が小委員会を構成し斡旋したが不調に終つたので同年十一月八日組合大会を開いて協議したところ右両名の解雇の撤回を第一とする者六名と団体協約の締結を第一とする者六名と意見が分かれ結局従前通り解雇の撤回を主とのて交渉を進めることに決定その折衝中被申請人は同月十日同組合員である申請人川井美春及び同富樫初子に対し書面をもつて解雇の申入をし又同月二十九日同様同組合員である申請人菅原俊子及び訴外阿部信子に対しても書面をもつて解雇の申入をして来たのである右解雇申入当時の申請人等の雇傭条件は別紙記載の通りである。以上のように申請人等に対する右解雇の申入は労働組合法第十一条に違反するものであること明白で山形地方労働委員会も昭和二十三年一月十六日右申請人三名及び訴外阿部信子の四名に対する解雇の申入について被申請人の前記代表者室富正規及び室富克己を労働組合法第十一条に違反するものとして山形地方検察庁にその処罰を請求し同検察庁は取調の上同年三月十九日山形地方裁判所鶴岡支部に右両名を同法条違反として起訴し同裁判所は同年五月二十七日右室富正規に対し禁錮三月但し二年間執行猶予室富克己に対し罰金五百円の判決の言渡をしたのであり法律上当然に無効である申請人等はその解雇無効確認等の本案訴訟提起の準備中であるが本案判決の確定を待つことが到底できないから今すぐに職場に復帰する趣旨の仮処分を求めるため本件申請をすると陳述し

被申請人の答弁に対し

労働組合法第十一条に違反した解雇の有効無効は刑罰を言渡した判決の確定を待つて決定するものではなくその違法の解雇をした時に決するものであつて労働委員会の請求検察庁の起訴裁判所の裁判等は刑罰権行使の要件にすぎないただこれらは解雇の違法性を疎明する有力な資料の一である又現在の雇傭関係は単に労務の提供と報酬の支払いの関係ばかりでなく労務者は団結権団体交渉権団体行動の権利等の組合活動の自由をもち且つ理由なく他の労務者と差別的不利益な待遇をされない権利をもつ等雇傭関係の継続について現実に保護されなければならない地位をもつているものであり本案判決の確定を待つていては回復することができない損害を生ずると述べた。

(疎明省略)。

被申請人訴訟代理人は本件申請を許さず申請費用は申請人等の負担とするとの判決を求め

その答弁として、

被申請人が、映画館鶴岡東宝劇場の経営者で申請人三名がもと被申請人の従業員であつたこと、被申請人が申請人等主張の日申請人等に対し、解雇の申入をしたこと右解雇申入当時の申請人等の雇傭条件が申請人等主張の通りであつたこと及び申請人等主張の被申請人の代表者等がその主張のように労働組合法第十一条違反として起訴されて、第一審有罪の判決を受けたことはいずれもこれを認めるがその他の事実ことに本件仮処分の必要性に関する申請人等の主張は争う右第一審有罪判決に対しては、控訴を提起し現に審理中であり判決が未確定であるなお次の主張をする。まず第一に本件仮処分によつて保全する本権が存在しないし又これに附随する仮処分も又ありえない。申請人等は本件解雇の無効を主張しその無効の原因を被申請人の解雇が、労働組合法第十一条に違反したとしているが、右解雇が同法条に違反したかどうかは目下起訴により審理中であるが判決未確定であり事実も又未確定であるから、申請人等は未だ右解雇の無効を主張できる段階に達していない。なぜならば解雇の無効を主張するにはその解雇が違法であることが必要であり、解雇が違法であるかどうかはその刑罰が確定することが必要である。従つて刑罰が確定しなければ違法がなく違法がなければ未だ解雇の無効もないからであるこのことは同時に右刑事判決確定前には本案訴訟もありえないことを意味し、本案訴訟がなければ仮処分も又ありえないといわなければならないこれはちようど未だ貸与しない貸金をあらかじめ請求できないのと同様に全く本案訴訟として成立しがたいものである。次に仮に百歩を譲り本案訴訟が法律上成立できるものとしても本件仮処分はその必要性を欠いているすなわち解雇が右労働組合法第十一条に違反しその無効が確定した後において申請人等がその無効を主張し、且つこれによる損害回復の途を講ずることは自由であるが、それはその時において金銭的に見積つて賠償できる性質のものであつて、今特に仮処分によつて保全しておくというような必要が少しもない。以上の理由で本件仮処分申請は失当であると陳述した(疎明省略)。

理由

被申請人が映画館鶴岡東宝劇場の経営者で申請人三名がもと被申請人の従業員であつたこと、被申請人が申請人等主張の申請人等に対し書面をもつて解雇の申入をしたこと、右解雇申入当時の申請人等の雇傭条件が申請人等主張のように別紙記載の通りであつたこと及び申請人等主張の被申請人の代表者等がその主張のように労働組合法第十一条違反として起訴され第一審有罪の判決を受けたことは、当事者間に争がない。果してそうなら終局的判断をする本案訴訟と異る本件では被申請人主張のように右第一審有罪判決に対して控訴を提起し未だ審理中であり、その判決が未確定であるとしても申請人等に対してなした被申請人の前示解雇の申入は労働組合法第十一条に違反してなされたものであることの一応の疎明があつたものといわなければならない。従つて、又強行法規である右労働組合法第十一条に違反する前示解雇の申入は法律上当然に無効のものと解しなければならない。被申請人は、本件解雇が同法条に違反するかどうかは目下刑事々件が審理中であり、その判決が未確定であり、申請人等は未だその無効を主張する段階に達していないから仮処分によつて保全する本権が存しない従つて仮処分もありえないと主張するが本件解雇が同法条に違反して無効かどうかはその行為の時に決定するものであり、被申請人の主張のようにその解雇が同法条に違反するものとして起訴された刑事々件の判決の確定を待つて決定するものと解釈しなければならない理由がないから右主張は失当である。又被申請人は申請人等は本件解雇の無効の確定後に金銭的賠償で損害の回復ができるから、今特に仮処分申請の必要がないと主張するが従来民法上雇傭契約は労務者は雇主に対し労務に服することを約し、雇主は労務者に対しその報酬を支払う義務を負うことを約するものであり、労務者の雇主に対する権利は報酬請求権であり民法上労務者の雇主に対する権利は結局金銭的賠償で回復できる性質のものであることは、被申請人主張の通りであるが、憲法第二十八条が右労務者の報酬請求権を実質的に保障するためにいやもつと根本的に労務者の基本的人権を保障するために労務者に対し団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利を与えており労働組合法労働関係調整法労働基準法等の労働法規がその趣旨に従つて労務者の組合活動の自由保障のための具体的規定をしているから、現在の労務者は単に報酬請求権ばかりでなく、それを保障するための組合活動の権利をももつており、現今の社会事情ではこの本来の権利を保障するための手段にすぎない組合活動権が一般労務者の重要な権利となつており、労務者は他の労務者と一体となり、且つ不断に組合活動権を行使してその雇傭条件の向上を図り、生活権の擁護に努力している実情にあることは、一般に公知の事実である。すなわち労務者は不断に組合活動権を行使して、その雇傭上の適正な利得を収得できる地位にあり、この場合の労務者の雇傭上の利得は被申請人主張のように後日金銭的賠償で損害の回復ができるからとの理由でこの組合活動権の行使を拒否した場合の雇傭上の利得すなわち組合活動権の行使を拒否し、後日金銭的賠償でその損害を回復する場合その損害算定の標準となるところの労務者の雇傭上の利得と比較して増加するのが常態であるから、後日金銭的賠償で損害の回復ができるからとの理由で、組合活動権の行使を拒否することは憲法等により労務者に保障された利得を奪うものである。従つて現在の労務者については単に民法上の権利のみに着眼して仮処分の必要がないものということはできない。被申請人の右主張も又失当であるしかして雇主が労務者に対し解雇の申入をしたのに対し労務者がその解雇の無効を主張して抗争する本件のような場合では、雇主がその解雇を有効としてその解雇の申入後労務者をその従業員として取扱わないで他の従業員と差別的不利益な取扱をしている消極的態度自体その労務者の組合活動権の行使を現に妨害しているものといわなければならないし、又本件解雇申入後被申請人が申請人等をその従業員として取扱つていないし、申請人等が鶴岡東宝劇場に出入することを妨げ、他の従業員と差別的不利益な取扱をしていることは被申請人において明に争わないものといわなけれはならないから、申請人等と被申請人の間の本件解雇をめぐる権利関係について、前述のように争のある結果を生ずる危険があり申請人等においてこの争のある結果を生ずる危険を防止するため、右権利関係について仮の地位を定める仮処分を求める必要のあるのは勿論である。それで申請人等において当裁判所は相当と認める金千円宛の保証を立てることを条件として、被申請人は申請人等をそれぞれ当事者間に争のない前示解雇当時の雇傭条件に従つてその従業員として取扱い、若し本件解雇申入直後他の従業員が一般に給料が上昇する等雇傭条件の変化があつたとき右解雇当時の雇傭条件に対し、他の従業員と平等に昇給させる等の修正をした雇傭条件に従つてその従業員として取扱い且つ申請人等が、その従業員として鶴岡東宝劇場に出入することを妨げ又は申請人等に対し他の従業員と差別的不利益な取扱をしないことを求める趣旨の本件仮処分申請は正当であるから、これを認容する。

なほ申請人等は解雇申入の執行を停止する趣旨の仮処分をも求めているが、解雇は雇主から労務者に対するその意思表示の到達によつてその効力を発生し、本件の場合では申請人等に対する解雇通知書の交付によつてその効力を発生し、その後に執行しなければならない何物もないばかりでなく本件仮処分は本件解雇が労働組合法第十一条に違反し無効であることを理由とするものであること前示説示の通りであり、無効の解雇に停止しなければならない効力のあるはずもないから、その主張において矛盾があるものといわなければならない。そればかりでなく右申請人等の申請の趣旨が解雇申入の効力の停止を求める趣旨としても元来保全訴訟の許容されるのは仮差押及び係争物に関する仮処分の場合に明瞭なように、権利関係についての仮の地位の仮処分の場合でも特定の権利関係について争のある結果を生ずる危険の現存する場合であることを要するのは異論のないところである。この争のある結果を生ずる危険がなければ仮処分申請の権利が発生しないし、申請人が仮処分の必要を感ずるのは現にこの危険があるからである。この危険防止の対策として、保全訴訟制度の存在理由があるのである、ところで法律要件である解雇の効力すなわち雇傭関係を解消させ雇主及び労務者に対し雇傭契約上の権利義務を消滅させるというその抽象的効力自体はこの危険を生じさせるものではない。この危険を生ずるのは雇主がその解雇を有効であるものとし、これを前提として消極的積極的の具体的行動に出たときにはじめて生ずるのであるただ本件の場合のように被申請人が解雇を有効として申請人等をその従業員として取扱わないという消極的態度自体もこの危険を生ずるから、この場合の抽象的効力の発生の時とこの消極的態度との間には時間的間隔が少い場合もあるが、なお観念上両者の差異がある要するに仮処分によつて停止を求められるのは、被申請人の消極的積極的の具体的行動によつて生ずる危険であり法律要件である解雇の抽象的効力自体ではない。法律要件の抽象的効力は実体法によつて当然に発生するものであり、保全訴訟手続によつて実体法の効力を停止するようなことのできるはずのないのはいうまでもないところであろう。しかし、右申請人等の執行停止を求める意図は争のある結果を生ずるあらゆる危険の防止すなわち被申請人が、本件解雇を有効としこれを前提としてなすあらゆる消極的積極的行動の停止を求める趣旨と解することができるから、当裁判所は申請人等の申請の趣旨をこのように解し、その目的を達するのに必要な処分として前示の限度を認容したのである。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決する。

(別紙)

昭和二十二年十一月当時の申請人三名の雇傭条件

川井美春分   富樫初子分   菅原俊子分

一、給料(一ケ月) 七〇〇円 七五〇円 六〇〇円

二、職場 出札係 映写助手 改札係

三、勤務時間 毎日 午前十時出勤 同上 同上

午後九時退社

四、その他 一ケ月二回有給休暇 同上 同上

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